スマートフォン、Wi-Fi、Bluetooth、そして業務用の無線機やIoTデバイスまで、現代社会におけるあらゆる通信は「無線技術」に支えられています。その中で重要な要素の一つが「距離」、すなわち電波が届く範囲です。

無線通信の距離は、利用する周波数帯や出力、周囲の環境によって大きく変わります。例えば同じWi-Fiであっても、2.4GHz帯は遠くまで届きやすい一方、5GHz帯は距離が短い傾向にあります。また、Bluetoothは近距離通信に特化しており、数十メートル程度の範囲で利用されます。

本記事では、無線通信における距離の基本的な考え方、各種無線技術の距離特性、距離を伸ばす工夫や注意点、そして今後の展望について詳しく解説します。

無線通信における距離とは何か

無線通信における距離とは、送信機と受信機が電波を安定してやり取りできる範囲のことを指します。単純に直線距離で測ることもありますが、実際には「通信品質を保てる距離」という考え方が重要です。

距離を決定づける要因には以下のようなものがあります。

周波数帯：低い周波数ほど障害物を回り込みやすく遠くまで届きやすいが、データ容量は小さい。高い周波数は高速通信が可能だが直進性が強く、距離は短くなる。
送信出力：電波の強さが大きいほど遠くまで届きやすい。ただし法律による制限がある。
アンテナ性能：指向性アンテナや高利得アンテナを利用することで、到達距離を大幅に伸ばせる。
周囲の環境：建物の壁、金属、木材、水などは電波を遮断または減衰させる。屋内と屋外では距離が大きく異なる。

無線通信技術ごとの距離の目安

Wi-Fi

2.4GHz帯：屋内で約30m、屋外で100m程度まで通信可能。壁や家具があっても比較的届きやすい。
5GHz帯：屋内で10〜15mが目安。障害物に弱く、壁を越えると急激に減衰するが、高速通信が可能。

Bluetooth

Class 2（一般的なスマホ・イヤホンなど）：最大10m程度。
Class 1（産業機器やPC向け）：最大100m程度。
最新Bluetooth 5.0以降：条件が良ければ400m以上届くことも可能。

モバイル通信（4G/5G）

4G（LTE）：数km単位で通信可能。基地局が広範囲をカバーする。
5G：高速・低遅延だが電波の到達距離は短く、数百メートル程度が目安。特にミリ波帯では直進性が強く、屋内への浸透性が弱い。

LPWA（Low Power Wide Area）

IoT向けの通信方式で、数km〜数十kmの通信距離を誇る。低速・省電力通信を得意とするため、スマートメーターや農業センサーに使われている。

距離を伸ばすための工夫

無線の距離を伸ばしたい場合には、いくつかの方法があります。

中継器やメッシュWi-Fiの導入：Wi-Fiの電波を複数の機器で中継し、広い範囲をカバーできる。
高性能アンテナの使用：指向性アンテナを利用すると、特定の方向に強い電波を飛ばせる。
設置環境の改善：ルーターや無線機を高い位置に置き、障害物を避けることで距離が伸びやすい。
最新規格の利用：Bluetooth 5.0やWi-Fi 6など、新しい規格では通信範囲や安定性が改善されている。

無線距離を活用する実用シーン

家庭でのWi-Fi利用

戸建てや広いマンションでは、2.4GHz帯でカバーしつつ、近距離で高速通信が必要な場所には5GHz帯を利用すると効率的です。

オフィスや工場

大規模施設ではメッシュWi-Fiや業務用アクセスポイントを設置し、途切れない通信環境を構築します。工場ではLPWAを利用して広大な敷地のセンサーを管理するケースもあります。

医療・農業・物流

遠隔監視やセンサー管理には、距離が長く省電力な無線方式が適しています。農場の環境モニタリングや物流のトラッキングでLPWAが活用されています。

無線距離に関する注意点

無線の距離は理論値と実用値が大きく異なることがあります。メーカーが提示する最大距離は「見通し環境（障害物なし）」での値であり、実際の屋内環境では半分以下になるケースも珍しくありません。

また、距離を伸ばすために出力を強くすることは法律で制限されています。日本国内では総務省の電波法に基づき、利用できる出力や周波数帯が厳格に定められています。違法な機器を使用すると電波干渉を起こすだけでなく、罰則の対象となる可能性があります。

さらに、距離が長くなると遅延や速度低下が発生しやすいため、単純に「遠くまで届けば良い」というわけではなく、用途に応じた最適なバランスを取ることが重要です。

今後の展望：距離と高速性を両立する無線技術へ

今後の無線通信は、距離と速度、そして省電力性をいかに両立させるかが鍵となります。

6Gの研究開発では、数百Gbps級の高速通信と、数km単位の広域カバーを両立させることが目指されています。また、衛星通信やドローン通信との組み合わせにより、地上インフラが整っていない地域でも安定した無線通信が可能になるでしょう。

IoTやスマートシティの発展に伴い、数十億台規模の無線機器が世界中で稼働することになります。そのため、距離や周波数の使い分けがより重要となり、最適な通信方式を選ぶ知識が今まで以上に求められる時代になると考えられます。

まとめ：無線距離を理解して最適な通信環境を構築する

無線通信における距離は、周波数帯や出力、環境によって大きく変動します。Wi-Fi、Bluetooth、モバイル通信、LPWAといった各技術は、それぞれ得意とする距離と用途があります。

重要なのは、「距離＝万能」ではないという点です。距離が長ければ速度や遅延に影響が出る場合もあり、用途に応じた適切な技術を選択することが必要です。

家庭ではWi-Fi、モバイル環境では4G/5G、産業用途ではLPWAやBluetoothといったように、それぞれの距離特性を理解し使い分けることで、安定かつ快適な通信環境を整えることができます。

無線通信の距離を正しく理解することは、現代社会での暮らしやビジネスをより効率的にし、未来のテクノロジーを最大限に活用するための第一歩なのです。